パチスロ開発における企画ディレクターの業務内容とその実践的役割
目次
一般的にはぱちんこ・パチスロと呼ばれる遊技機ですが、店舗に何百台と並んでいる1機種が完成するまでに、どれだけの時間がかかってどんな人が関わっているかご存知でしょうか?
遊技機1機種を完成させるのに企画ディレクターと呼ばれる役割の開発者がいます。今回は、遊技機とりわけパチスロの企画ディレクターが、新機種の企画立ち上げから開発工程でどんな企画を立案して新機種のパチスロを生み出すのか、具体的な業務内容をお伝えしていきます。
遊技機業界は非常に奥が深く、パチスロ好きな人こそ知れば知るほど沼にハマることまちがいありません!そこで今回は、遊技機メーカーでのパチスロ新機種の企画立ち上げから著作権の版権元にあたるIP取得までのながれや、遊技機メーカーと協力会社にあたる開発会社との違いなど、徹底解説いたします。
遊技機業界へ転職を考えている人、パチスロ企画ディレクターのお仕事が気になっている人は、ぜひご参考にしてください。
遊技機業界用語を知る
遊技機とは
ぱちんこ、パチスロのことを正式には、それぞれ、ぱちんこ遊技機、回胴式遊技機と呼び、両方を指し示す場合、単に遊技機と呼ぶことがあります。遊技機は、主にIPをモチーフにした機種と、オリジナルキャラクターなどのメーカー独自コンテンツをモチーフにした機種の2パターンに分かれています。それぞれ企画開発の進め方や、それに伴う利害関係者などが異なります。
IPとは
遊技機業界では、IPというキーワードが頻繁に使われます。IPとは、intellectual propertyの略で知的財産に関する権利を意味します。もう少し分かりやすくお伝えすると、アニメやゲーム、ドラマや映画などの著作権のことを指し、それらの著作権を有する個人や法人のことを著作権者や版元と言います。
遊技機業界ではIPをモチーフにした機種を開発するために版権元に交渉し使用許諾を得て新機種開発します。長期ヒット商品の代表格、「北斗の拳」「魔法少女まどか☆マギカ」はIPのパチスロになります。「北斗の拳」「魔法少女まどか☆マギカ」のIPを版元から使用許諾を得て、パチスロ新機種を開発・製造しています。
メーカー独自コンテンツとは
その名のとおり、遊技機メーカーが独自で創り出すコンテンツやキャラクターです。独自コンテンツの有名な機種としては「ジャグラー」や「押忍!番長」「HANABI」などが挙げられますが、そのほかにも数多くの機種が販売されてきました。
現在でこそ、「ジャグラー」や「押忍!番長」、「HANABI」はタオルやキーホルダーなどさまざまな関連グッズが販売されていますが、遊技機が元になったコンテンツです。
パチスロ企画ディレクターの仕事
パチスロ開発における企画ディレクターの役割とは?
パチスロ企画ディレクターは、商品としてのパチスロ機を“ゼロから設計する責任者”です。ゲーム性のコアである出玉性能やリール配列の設計、映像・サウンド・ランプなどの演出表現、そしてIPとの融合など、あらゆる要素を統合してひとつの遊技機として仕上げていきます。
歴史的にみても、単に出玉が出るだけ、有名なIPだけ、洗練されたゲーム性だけ、美麗な液晶だけ、多彩なリーチ目だけ、というような差別化要素単体ではヒットする確率は低く、「出玉×ゲーム性×知名度×世界観×没入感」といった様々な要素をユーザーに楽しんでもらえるバランス感でいかに設計できるかが問われています。バランスという明確な正解がない雲を掴むようなものに対して、企画ディレクターは遊技者のニーズを考えながら腹を括り、仕様の決定と設計を行う中心的な存在です。
開発の流れと業務内容
企画ディレクターの仕事は、以下のようなステップで進行していきます。
商品企画
どのような遊技機を出すのか、まずは大枠の企画を立てます。IPを活用するのか、オリジナルでいくのかもこの段階で検討します。市場の動向、過去の販売実績、ユーザーニーズなどを分析して、どのようなスペック・ゲーム性が求められるのかを構想します。
出玉・リール設計
パチスロでは“出玉性能が先行して決まる”ことも多く、それに合わせてリール配列や状態管理を設計していきます。リール配列は出玉性能を実現させた上で、目押しポイントや停止毎に図柄の組み合わせに関する分岐を生成させるように検討、停止時の滑りなども考慮し、遊技者にどう楽しんでもらえるかを細かく設計する必要があります。
演出フロー構築
出玉設計に連動して、演出フローや演出モードの設計に入ります。映像やサウンドはもちろん、ランプや役物などをリール停止とどのように絡め、どのような展開でユーザーに“ドキドキ”を提供するかをチームで決めていきます。
チームマネジメントと社内外の調整
パチスロの開発には、多くの専門職が関わります。出玉設計、組み込み制御プログラマー、映像企画ディレクター、サウンド担当、メカ設計、ハード設計、ランプデザイン…など、内部メンバーだけでなく外注パートナーも含めたプロジェクト運営が求められます。企画ディレクターは、すべての制作物が開発目的と合致しているかを判断し、方向性のブレを防ぐ役割を担います。
開発の繁忙期(最も制作作業が多くなるような時期)では一日に何十件もチェックバックを出すこともあり、ディレクターには“泥臭く見る力”も不可欠です。
ぱちんこと比較したときの違い
ぱちんこで、盤面の端に小さく設置されていることが多いメインセグによる当落表示を中心として楽しむ遊技者は極めて少ないと思います。しかし、パチスロではメインリールによる図柄の組み合わせの表示(小役が揃う、チャンス目やリーチ目停止など)が当落伝達の主な手段となり、遊技者を魅了する1つの要素となっています。
このことにより、液晶などの演出の立ち位置がぱちんことパチスロでは異なることになります。ぱちんこは演出が全てと言っても過言ではなく、演出用タイマー中に表示される演出だけでほぼ完結します。一方、パチスロの演出では、レバー押下からリールの停止に対して、予告し、煽り、盛り上げることを中心としつつ、その他、状態伝達や世界観の提示を行います。
結果として、ぱちんこの演出は、当落表示までのタイマーを軸に当落までのストーリーを全て伝達し、パチスロの演出は、遊技の契機を軸に、リールを盛り上げていくという違いが生まれます。
この違いにより、ぱちんこでは、演出時間が長く、ストーリー演出などが組み込まれる傾向があり、パチスロでは演出が”飛ばされる”ことを前提に情報は短く、早く、わかりやすく伝えるよう設計します。演出表現のスタイル自体が異なります。
ディレクションのリアルと責任
企画ディレクターは、仕様を作るだけの存在ではありません。すべての成果物に対して“良し悪しを判断する責任”を持っています。リールの停止制御、チャンスゾーンでの信頼度などのメイン的な部分や、映像やサウンド、ランプなどの演出的な部分全てにおいて、チームで作る以上、自分が思った通りの成果物が納品されてくるとは限りません。
そこで「なぜこの演出では足りないのか」「何をどう変えれば期待感が増すのか」を具体的に伝え、改善を依頼するのが企画ディレクターの仕事です。言語化能力はすごく大事で、“感覚”を“言葉”に変換できる力が重要です。
開発現場の実情とやりがい
パチスロの開発期間は通常2年程度ですが、その間に規則の解釈変更、方向転換や仕様変更、上層部の意見反映、試験不適合など、さまざまなトラブルが起こります。
中には「半年かけた演出設計がボツになった」などのケースもあり、精神的なタフさが求められる職種でもあります。
しかし、自分が設計した企画が実際にホールで稼働し、ユーザーの反応を目にした瞬間は、何にも代えがたい達成感があります。手間も多いものの、面白い台を作れたときの感動があるから、またやりたくなります。
パチスロ新機種開発のプロジェクトチーム体制について
パチスロの新機種開発プロジェクトにおける企画ディレクションのチーム人数は、開発規模や協力会社への依存度など、内外の開発環境によって異なります。
例えば、協力会社への依存度があまり高くない中規模プロジェクトの場合だと、メーカー内部の人数は、出玉とリール配列、停止制御などの企画制作プランナーが1〜2名、演出出力確率の仕様設計担当が1〜3名、制作進行を管理する担当が1〜2名、液晶演出の検討担当が1〜3名、その他演出(サウンドやランプなど)の企画検討担当が1〜2名程度になるケースが多いと考えられます。そして、コアメンバーの中から筆頭となるプロジェクトリーダーが選ばれます。
これらメンバーは、プロジェクトの繁閑に応じて、他のプロジェクトへヘルプとして貸し借りされることもめずらしくはありません。
パチスロ新機種開発における協力会社の存在
パチスロ開発においても、遊技機メーカーは協力会社の力をお借りします。協力内容は案件により様々です。液晶演出はもちろん、サウンドやランプといった演出、演出抽せん、出玉やリール、さらにはコンセプトにもつながるような大元の企画検討にいたるまで、多くの領域でメーカーとタッグを組んで開発を行います。ものごとの最終的な決定はメーカーサイドが行うことにはなりますが、「言われた通りのものを作るだけ」といった受け身の姿勢というよりは、共に遊技機を作り上げる仲間のようなスタンスで作業することも多く、協力会社の存在意義は高いものと言えます。
パチスロ企画ディレクターが向いている人の特徴
出玉設計やゲーム性に強い関心がある
パチスロの出玉設計は、機械割97%〜115%程度の範疇で出玉のINとOUTを作ればいいだけ、という訳にはいきません。出玉のウリの要素を意識しつつ、規則や解釈基準を読み解きながら遵法の範囲で実現可能な仕組みを考え、実際に適合できる数値か計算し、平均MY(ざっくりいうと一番吸い込んだところから一番出たところの差)、コイン単価(メダル1枚あたりの利益)などのパチンコホール店舗が気にする傾向がある値を考慮しながら、その上で、遊技者が楽しくなるような状態遷移やレバーの叩きどころなどを作り上げる必要があります。
ある意味、パチスロの醍醐味の全てが詰まったような部分の開発となるため、憧れる人も多い印象がありますが、規則、数値、ホールと遊技者ニーズなど多方面での考慮検討が必要で、これら大量の考慮点をも楽しめるレベルで関心を持てる人がふさわしいです。
数値や論理的思考が得意で、Excelシミュレーションに抵抗がない
抽せんのかたまりといえるパチスロなので、確率計算を行う機会が多いです。そのため、基本的に数字に強い人が有利であり、確率計算における場合分けなどの論理的思考は普通に必要となります。また、出玉用のシミュレーターはExcelで作られることも多く、Excel作業への抵抗感がないことも重要な要素となります。
チームとのやりとりが好きで、人と協働するのが得意
数多あるパチスロの仕様検討やデータ作成業務などは、基本的にはチーム内で分業制となります。それぞれの仕様やデータ、情報の円滑な流通は、開発において重要となり、やり取りの回数は莫大なものとなります。また、ディレクション業務を担うことも多く、協働することが基本となります。
開発中に多く発生するチーム内でのやり取りやディレクション業務は、人との協働が必須となるため、得意であることはアドバンテージとなります。
IPや世界観を深く読み解き、企画に反映できる人
パチスロの開発において、演出仕様検討時に、IP素材を流用しパチスロ演出に作り上げる工程は多く発生します。IPの世界観を無視して見栄え重視などで流用すると、パチスロとしてチグハグになるばかりでなく、版元から当該演出の許諾を得ることができません。IPでのストーリーを理解し、パチスロ内で巧みに再構築しながら企画に反映し、演出として成立させるスキルは重要となります。
ゲームバランスを考えるのが好きな人
ゲーム性を決定づける要素に、出玉、状態遷移、演出出力確率などの要素があります。これら全ては極端であれば良いことは稀で、全てバランス感が必要となります。もちろん、極端にさせることをコンセプトにする場合もありますが、あくまでその狙いがある場合だけです。人間は理屈以上に感情で判断する傾向がある生き物であり、もちろん人間である遊技者さんに楽しんでもらうためには、理屈ではなく与える感情を重視するべく、あらゆるバランスをとりにいく必要があります。このゲームバランスは仕様上で想定した上で、試作機を打ちこんで時間の許す限り調整をおこないます。これら工程を楽しめるセンスは、企画向きかもしれません。
まとめ
パチスロ企画ディレクターは、アイデアを“商品”として具現化する役割です。商品力・ゲーム性・演出表現の全てを横断的に見ながら、チームを導くこの職種は、単なるアイデアマンでも、ただの設計者でも務まりません。
「この機種、実は自分が設計したんです」そう胸を張って言えるような機種を世に送り出す、やりがいあるポジションです。
高い壁もありますが、それ以上に得られる喜びが大きい仕事。遊技機開発の現場で“面白さ”を本気で追求したい方にこそ、おすすめしたい職種です。